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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)4841号 判決

事実

原告(株式会社昌栄洋紙店)は、被告(野方ふじ)が若平喜由に宛て振り出した約束手形二通を右若平より裏書譲渡を受けて現にその所持人であるが支払期日に支払場所に呈示して支払を拒絶されたので、手形金合計十二万四千三百円と支払期日より完済に至るまで年六分の法定利息の支払を求めると述べた。

被告は抗弁として、訴外若平喜由は被告に対して被告の取引銀行における被告の口座を利用して手形取引をすることを依頼した。而して本件各手形も右の趣旨によつて若平が被告にその手形金相当の金をその支払期日以前に持参し、右を被告の口座に預け入れた上、被告の取引銀行によつて支払わるべきものであつて、その支払責任者は若平にあつて被告には何らの責任もないものである。原告代表者吉田功は、被告と若平との間の以上の事実を知悉し、本件各手形を若平から裏書譲渡を受けるに際して、これが支払の責任は若平にあつて被告にはないことを知つていたものであるから、被告に対する原告の本訴請求は失当であると述べた。

理由

若平喜由は以前原告会社に勤めていたが、その後独立して昭年三十年一月頃から原告と取引を始めるようになつたものであるところ、その取引を始めるに際して口座のある取引銀行を持たなかつたので、継母である被告の取引銀行の当座預金の口座を借りて約束手形による取引をすることの了解を求めて、原告会社代表者吉田功の承諾を得たものであり、又右吉田は若平が唯被告の取引銀行の預金口座を借りるだけで、約束手形の支払は若平の金を以てなされるものであり、本件各手形の場合も若平のみがその責任者であつて、被告はただ振出人名義を若平に貸しているものであり、被告は本件各手形の支払責任を有しないものであることを知りながら本件各手形を若平より裏書譲渡を受けたものであることが認められるから、原告は右事情を知つた上で本件各手形の裏書譲渡を受けた所持人と認定され、従つて被告に対して本件各手形の支払を求めることはできないものというべきであり、原告の本訴請求は失当であるとしてこれを棄却した。

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